先日、ふとしたきっかけでSF作家・星新一の『未来イソップ』という短編集を手に取りました。誰もが知るイソップ寓話を、星新一が独自の視点でアレンジした作品集です。これが想像以上に面白く、そして深く考えさせられる内容だったので、ご紹介したいと思います。
「ショートショートの神様」星新一とは?
本題に入る前に、まずは著者の星新一について簡単にご紹介します。
- 星新一(ほし しんいち、1926-1997): 東京生まれ、東京大学農学部卒。
- SFのパイオニア: 1957年に日本初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参加し、特に「ショートショート」という短い形式の小説分野を開拓しました。
- 驚異的な多作: 生涯で1001編を超えるショートショートを生み出し、そのどれもが高い質を保っていたことから「ショートショートの神様」と称されています。代表作に『ボッコちゃん』『悪魔のいる天国』など多数。
- 多彩な執筆活動: SFだけでなく、父・星一(星薬科大学の創立者)や祖父・小金井良精(解剖学者・人類学者)とその時代を描いた『明治・父・アメリカ』『人民は弱し 官吏は強し』といった伝記文学、ノンフィクションも手掛けています。
膨大な作品数とジャンルの幅広さが、星新一という作家の奥深さを物語っていますね。
『未来イソップ』の世界:古典寓話が大変身!
さて、今回読んだ『未来イソップ』。これは、<アリとキリギリス>や<ウサギとカメ>といった、子供の頃から親しんできたイソップ寓話をベースにしたショートショートが33編収録されています。
語り継がれてきた古典的な物語が、星新一の手にかかると、もう大変! 現代的な風刺や皮肉がたっぷりと効かされ、予想もしない方向に物語が転がっていきます。「時代が変われば話も変わる」とは言いますが、ここまで大胆にアレンジしてしまうとは…と、良い意味で裏切られました。
読後感:ユーモアとブラックユーモアの絶妙なブレンド
読み進めるうちに感じたのは、星作品特有の「読後感」です。
多くの話に共通しているのは、「何かのアイディアや発明で楽をしようとしたり、ズルをしようとしたりすると、最後にはしっぺ返しが来る」という展開。これはどこか『ドラえもん』のひみつ道具に頼った末路にも似ていますが、星新一の場合はもっとシニカルで、痛烈です。
そして、単なる「ユーモア」で終わらないのが星新一の真骨頂。いくつかの話は、笑いよりもむしろ「ブラックユーモア」と呼ぶ方がしっくりくる、救いのない結末や、少しぞっとするような結末を迎えます。人間の愚かさや社会の矛盾を、短い物語の中に凝縮して突きつけてくるかのようです。
楽しい笑いだけでなく、ピリッとした諷刺、そして時には背筋が少し寒くなるような読後感。これらが渾然一体となっているのが、『未来イソップ』の、そして星新一作品全体の魅力なのだと感じました。
まとめ
星新一『未来イソップ』は、ショートショートならではの切れ味と、古典寓話の新たな解釈を楽しめる、非常に刺激的な一冊でした。星新一入門としても、気軽に読めておすすめです。
おなじみの物語が、現代的な視点で見るとこんなにも違った顔を見せるのか、と驚くと同時に、時代が変わっても変わらない人間の本質のようなものを考えさせられました。
興味を持たれた方は、ぜひ手に取ってみてください。きっと、星新一の描く奇妙で少し不思議な世界の虜になるはずです。
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